村上龍『希望の国のエクソダス』
自分は会社なんかに縛られていないと思ってた。
昇給なしという会社の方針を聞いたときだけど、信じられないことに、目の前が真っ暗になったんだ。昇給といっても、年に二回、せいぜい数千円だよ。
しかし、恥ずかしい話だが、なくなってみて、それがモチベーションになっていたんだなと、気づいた。
それまでは当たり前のことをだったんで、気づかなかったんだろう。
サラリーマンにとってサラリーは恐ろしいもんだ。自覚がなくても、結局はそれが精神まで支えている。誰かに認められたり、誰かに褒められたり、ということの象徴が年に二回の昇給だったというわけで、おれはそれが無くなってみて初めて気がついたということだけど。