草食動物的に記憶を取り出す。
草食動物は、胃がいくつもある。
一度食べたものを、一度で消化しない。
口から胃、胃から口に、
食べたものを移動して、
咀嚼する。
僕は何でも食べる。
嫌いなものはない。
僕は何でも記憶する。
嫌なものは寝たら忘れる。
草食動物のように、食べたものを逆流させることはないけれど、
記憶したものを、ときに取り出す。
ああそんな日もあったなと、
今日の、そして明日への糧にする。
村上龍『希望の国のエクソダス』
自分は会社なんかに縛られていないと思ってた。
昇給なしという会社の方針を聞いたときだけど、信じられないことに、目の前が真っ暗になったんだ。昇給といっても、年に二回、せいぜい数千円だよ。
しかし、恥ずかしい話だが、なくなってみて、それがモチベーションになっていたんだなと、気づいた。
それまでは当たり前のことをだったんで、気づかなかったんだろう。
サラリーマンにとってサラリーは恐ろしいもんだ。自覚がなくても、結局はそれが精神まで支えている。誰かに認められたり、誰かに褒められたり、ということの象徴が年に二回の昇給だったというわけで、おれはそれが無くなってみて初めて気がついたということだけど。
ネコがいるよ
仕事終わりに母親からラインの通知。
ネコがいるよ
60代の母親にもとうとうボケが入ったか、そんなことで連絡してくるなよと、心配しつつ苛立ちつつ、
電話をかける。
ご希望のビデオ通話に切り替える。
ネコがいた。
真っ白の毛並みで、肌色の目やにが少し残るネコ。
3歳くらいだろうか。
家に紛れ込んで弱っていたのを拾ったらしい。
そうか家にネコがいるのか。
いるか、ネコぐらい。
なんだか気持ちが整った。
こんな仕合わせもありだなと、
帰りしなに微笑む。
ああ明日も生きようと、
グリーンラベルのプルタブを開いた。